精神科医が斬る!! 朝青龍問題

20230fa5.jpg 朝青龍関の問題が、ワイドショーやマスコミで相当な話題になっています。

 朝青龍関が、「精神衰弱状態」とか「急性ストレス障害」とか、精神科の診断を受けていることもありますので、この問題について私なりに考えてみました。

 先場所で優勝した朝青龍関が、「疲労骨折」の診断書を相撲協会に提出し、夏の地方巡業を休もうとする一方で、モンゴルに帰国し、サッカーの試合に参加し診断書とかけ離れた行動を取ったことが大騒動となりました。

 日本に帰国し、マスコミからのバッシングが強まる中、朝青龍関が
精神的な不調を訴えたため、本田医師の診察の後、
「神経衰弱状態及び抑うつ状態」という診断がされました。

「神経衰弱状態及び抑うつ状態」。

 私は、ワイドショーを見ていましたが、この診断を聞いた時に
この本田医師は「精神科医ではないのではないか?」
とまず思いました。 

 もし本物の精神科医だとするなら、「全然ダメな精神科医だな」と
思いました。

 その理由は、「神経衰弱状態及び抑うつ状態」という診断が
ありえないからです。

 一年目の精神科医でも、こんな診断はしないでしょう。

 「抑うつ状態」であるなら「抑うつ状態」だけでいいわけで、
「神経衰弱状態」は不要です。

 「抑うつ状態」でありながら、「神経衰弱状態」というのが、意味
不明です。
 
 さらに、「神経衰弱状態」という診断名は、精神医学における正式な
診断病名ではありません。

 精神科の診断というのは、「DSM-VI」や「ICD-10」といった
世界標準の診断基準を使うのが普通で、「神経衰弱状態」というのは
そうした診断基準には含まれていません。
 (「急性ストレス障害」は、これら世界的な診断基準に沿った診断名)

 「精神衰弱状態」の意味は「精神的疲れています」という程度のこと
しか意味していなくて、一体どういう病像なのかが全くわからないのです。

 では精神科で「精神衰弱状態」という診断名は、全く使わないのか
というとそうではなく、診断書を書くときに、時々使われることがあります。

 診断書を会社に出す場合、「うつ病」とか「統合失調症」とか、
そのままスバリの病名を書いてしまうと、あとあと問題が起きる場合が
あります。

 日本は、精神病者に対する偏見が強烈な国ですから、会社に本当の病名が
知られてしまうだけで、患者さんは著しい不利益をこうむります。 
 それだけで実質上クビになりますから・・・。

 そうした事態が予想される場合は、「精神衰弱状態」という診断名で
はっきりとした病名を明かさないで、お茶を濁すということになります。

 今回の朝青龍関の場合は、「どういう精神状態なのか?」ということが
マスコミも多くの日本国民も注目していたわけですから、当然、
具体的な病名が診断されなければいけない状況です。
 
 そうでないと、誰も納得しないでしょう。
 そんな中で出てきた病名が「精神衰弱状態」です。

 常識ある精神科医であれば、「精神衰弱状態」という
わけのわからない診断名は絶対につけません。

 結局、本田医師は形成外科医であり、包茎手術が専門である、ということが
後日明らかにされましたが、「やっぱり」という感じです。

 本田医師は精神科指定医ということで、精神科の経験もあるのでしょうが、
「神経衰弱状態及び抑うつ状態」という全く学問的でない診断名を
平然とテレビの前で読み上げてしまう。

 これは、フツーの精神科医であれば、恥ずかしくてできないこと
ですから、今回の全国民的に注目を浴びている朝青龍問題にかかわる
「精神科医」として、全く不適当としかいいようがありません。

 さらに、この本田医師の診察には、マスコミではあまり問題にされていません
が、私は非常に大きな問題が存在していると思います。

 それは、本田医師の診察は、朝青龍関の主治医からの紹介で行われた
という点。
 つまり、本田医師は、朝青龍に近い関係者サイドの人間であった、
といことです。

 あるワイドショーでは、本田医師は朝青龍の知人だった、という
報道もありました。

 精神科の診察には、「客観性」が要求されます。

 内科でも外科でもそうですが、精神科の場合、内科や外科と違って
客観的な検査データというものがなく、「人対人」の診察によって
心の状態を観察していきます。

 精神科医の家族や友人が精神疾患にかかった場合は、
客観的な観察ができないため、正しい診断や正しい治療ができない、
というのは常識です。

 したがって、「精神的に不調である」ということを診断してもらうのには、
親しい関係者、あるいは知人の精神科医に診断してもらうことは、
はなはだ不適切である、と言えます。

 その診断は、全く客観性がなく、全く信頼できないわけです。

 本田医師は、「本人が望む最良の環境で休養するのが一番」とコメントして
いますが、このアドバイスもまた相当に不適切だと思います。

 例えば、精神疾患が重篤になれば、入院治療が必要です。
 今回も、報道から判断すると、朝青龍関の状態は軽症ではなさそうだという
ことですから、場合によっては精神科への入院治療というも選択肢も
ありえるでしょう。

 一方で、ほとんどの患者さんは、精神科になんか入院したくありません。

 つまり、場合によっては入院も考慮される精神状態がよくない患者さんに
対して、「本人が望む最良の環境で休養するのが一番」なとどいうアドハイス
は、全くナンセンスなコメントだと思います。
 
 「精神状態のいかんによっては、本人が望まない環境(入院)で休養する
こともてでくる」
 これは、フツーの精神科医にとっては、常識的な知識だと思います。
 
 その常識を無視して、本田医師は「本人が望む最良の環境で休養する
のが一番」というアドバイスをした。
 さの理由は、それは朝青龍関の「モンゴル帰国」を擁護するため。
 
 医学的な常識を無視して、朝青龍関に有利な発言をした、ということです。


 これが、「茶番」でなくて何でしょうか?

 「茶番」でないのなら、「ヤラセ」です。


 今回の、朝青龍問題は、

 外国人力士の問題。文化格差の問題。

 あるいは、相撲協会との問題。
 親方と弟子の関係がうまくいっていなかった、といった指摘もあります。

 しかし、私は全くそうは思いません。
 少なくとも、精神科医である私には、そうは見えません。
 
 一言でいえば、「診断偽装」問題です。

 最初の「疲労骨折」で療養が必要であるという診断書。
 まず、これが第一の偽装です。

 朝青龍関に軽度の「圧迫骨折」はあったのかもしれませんが、
日本に帰国後の別な整形外科医師による再診察では、入院の必要は全くないし、
最初ほど重症な診断はされていません。

 つまり、最初の診断書は実際の症状よりも重症な診断書を書いて
もらった、という「偽装診断書」と考えられます。

 なぜ、わざわざ「偽装診断書」を書いてもらったのか、その理由は、
夏りの地方巡業に参加したくなかったからでしょう。

 結局、「診断偽装」を行い、マスコミから強烈なバッシングを受けた
にもかかわらず、次に朝青龍サイドが行ったのは、なんと
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
二度目の「診断偽装」です。

 十分な経験を持ってるとは言えない知り合い筋の精神科医に診察してもらい、
自分に有利なコメントをしてもらう。

 どうみても、「診断偽装」です。

 客観性は皆無ですし、本田医師の診察結果は精神科医であれば
誰でも首をかしげたくなるような「ヤラセ」診断だった。

 最初のサッカーの問題だけであれば、「しょうがいない」とか、
「かわいそう」という同情論も出るのも理解できます。

 しかし、一度ならず、二度も「診断偽装」を繰り返しているわけで、
これはどう見ても確信犯です。

 そこに同情の余地は全くないと思います。


 なぜ同じことをするかというと、
「とりあえず、テキトーな診断書を出しておけば休める」という
甘い考えに全く変わりがないからでしょう。

 結局、反省しているような伝聞のコメントもありましたが、
そんものはどうみても嘘で、偽装の診断書を出したことに関しては、
何の反省もありません。


 私が、この問題にここまで激怒しているのには、大きな理由があります。

 後日の相撲協会サイドの別な精神科医の診察では、「急性ストレス障害」
という診断がなされています。
 
 こちらは、第3者の精神科医による客観性がある診察ですから、
朝青龍関が精神的に不安定な状態にある可能性は高いと思います。

 しかしながら、「また仮病を使っているんじゃないか?」とか
「精神病を隠れ蓑に使って、騒動を逃れようとしているにちがいない」とか
「精神疾患を利用して、モンゴルへの帰国を正当化しようとしている」
と思っている人がたくさんいるでしょう。


 それも、当然でしょう。


 彼の状態が今どうであるかは別にして、身内の医師に診察に頼み
自分に有利なコメントしてもらったということで、

「精神疾患を隠れ蓑として利用しようとした」

ことは事実なのですから。

 
 私は、一言、言いたい。
 
 精神疾患を隠れ蓑にすることはやめていただきたい。


 全国に100万人以上いる精神科患者への冒涜です。

 診断書を提出して仕事を休んで、自宅療養している精神科患者さんは、
今現在、日本中に何十万人はいるでしょう。

 そうした精神疾患をかかえ苦しんでいる人は、今回の騒動を
どう見ているんでしょうか。

 精神科の診断書を会社に出すだけで、
「おまえは怠けているだけだ!!」と怒鳴られたという話はよく聞きます。

 「精神障害者=怠け者」という偏見が、日本に根強く存在しているのです。

 多くの人が持っている誤ったイメージ。

 しかし、その誤ったイメージのせいで、精神障害者の人たち、
精神疾患をかかえている人たちは、多大な苦痛を感じています。

 「うつ病」の診断書を会社に出しただけで、「怠け者!!」と言われて
会社をクビになった患者さんが、本当にいるのです。

 また、休職して自宅で療養していても非常に後ろめたいですし、
そんな後ろめたい気持ちで療養していても、ちっとも療養になりません。

 拙著「自殺という病」 http://egoods.holy.jp/c/yamai.html

でも指摘しましたが、日本が先進国で自殺率が最も高い理由は、
日本が先進国で最も精神科に対する偏見が強い国であることと、
関係があるでしょう。

 今回の朝青龍問題を通して、
「精神的な不調で苦しんでいる人は、本当にたいへんなんだなあ」と
思う人はほとんどいないでしょう。


「精神障害者って、やっぱり怠けているだけなんじゃないのか?」

「朝青龍みたいに、精神科の診断書をもらって怠けて休んでいる奴が
他にもたくさんいるんじゃないか?」

と精神科に対する偏見が強まりはしないかと、私はたいへん危惧しています。


 朝青龍関が現在、「急性ストレス障害」で苦しんでいるとしたならば、
それは大変気の毒なことです。
 
 しかし、本田医師の診察問題、すなわち身内の医師に診察してもらって
「自分に有利な診断書と有利なコメント」を引き出したことは事実であり、
「精神疾患を隠れ蓑として利用しようとした」ことに関して、
私は許すことはできません。

 現在の「急性ストレス障害」が仮病でないことを、心から願います。

 この記事は、メルマガ「映画の精神医学」8月15日号で配信したものです。精神科医樺沢紫苑(佐々木信幸)の発行する同メルマガでは、社会問題に関しての精神医学的なコメントなどを掲載していますので、興味のある方は是非お読みください。

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1. Posted by BUBI    2007年08月17日 15:00
トラックバックありがとうございました。
現実に精神疾患で悩んでいる、多くの人々にとって、朝青龍の問題は、本当に怖いですよね・・・

「急性ストレス障害」の診断が出た後も、
「やっぱり眉唾じゃないか」とか
「あのときはこんなに元気だった」とか
いろいろ報道されていて、心配になってきます。

実際の精神科の医師の方もそれについて危惧されていることを知り、大変参考になりました。
2. Posted by mm    2007年08月19日 09:58
精神科領域の診察に身内に近い者が診察することが良くないことがよくわかりました。

ただ、残念なことは最初の診断書は「腰椎疲労骨折」が主ではなく、「肘の障害」がひどくて、相撲を取れるような状態ではなく手術が必要な状態であるから、というものでした。
皿を掴むだけでも痛みが出るという状態らしいです。

診断書を一方的に「腰椎疲労骨折」とのみ判断するから、朝青龍が詐病?という疑惑がでてくるのではないでしょうか?
たまりかねた病院が診察結果を公表したなどは異常な事態です。
まあ、日頃、品行方正とはほど遠い朝青龍ですから、このような疑いが生まれるのも仕方がないことでしょうが、事実に基づいた報道、協会の判断を望みます。
3. Posted by 東郷 幹夫    2007年08月26日 07:56
「精神科医が斬る!! 朝青龍問題」様
TBを頂き、有難うございました。兎にも角にも、朝青龍が出てきて何か言ってもらいたいものです。もしいえないとすれば、モンゴル人の親族を日本へ呼びつけて、彼の本音を言ってもらいたいものです。ことと次第によっては、親族にモンゴルへ連れて帰ってほしいものです。この際出場停止の期間を長くして、モンゴルで休養してもらうか、それが許されないとすれば、相撲協会から対談してもらう以外に道が無いと思います。

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