ベオウルフの心理学〜アンジーが過剰な色気で誘惑する心理学的理由とは?
■「ベオウルフ」の納得いかない謎アンジェリーナ・ジョリー主演の映画「ベオウルフ/呪われし勇者」は、ご覧になりましたか?
「ベオウルフ」は、英国文学最古の英雄叙事詩で、「ロード・オブ・ザ・リング」の原作「指輪物語」にも多大な影響を与えたと言われます。
「ベオウルフ」は、基本的には非常にシンブルな話ですが、おそらく
いくつかの疑問が残ったのではないでしょうか。
つまり、なぜ、モンスターはある日突然、父親を襲いに来るのか?
ということです。
映画では、「金色の輝く杯」。
これが、アンジェリーナ・ジョリー演じる妖艶なモンスター(特に、名前はついていないので、ここでは以下「アンジー・モンスター」と呼びます)の手元にある時は、子供の怪物はおとなしくしていますが、「金色の輝く杯」が手元からなくなった瞬間、それを取り戻しに子供の怪物が街を襲撃し始めます。
物語の鍵は、「金色の輝く杯」。
暗闇の中でもランタンのように光を発する杯は、聖なる魔力を持った「聖杯」ということなのでしょう。
聖なる宝ものを奪いにモンスターが来る。
神話的なストーリーですから、その答えで十分説明されているかのように思いますが、なぜアンジー・モンスターはそこまで「聖杯」にこだわるのでしょうか?
■ 繰り返される描写 〜「子供の父殺し」
なぜ、モンスターはある日突然、父親を襲いに来るのか?
若き頃のフロースガ―ルは、アンジー・モンスターと交わってしまいます。
そして、二人の子供が巨人グレンデルです。
成長したグレンデルは、フロースガ―ル王(アンソニー・ホプキンス)が収める街を襲撃します。
グレンデルとアンジー・モンスターを退治するために立ち上がったのが勇者ベオウルフです。ベオウルフはグレンデルを退治しますが、母親のアンジー・モンスターの誘惑に負けて、交わりを持ってしまいます。
それから、何十年か後。ベオウルフの子供である火を吐くドラゴンが、ベオウルフ王が収める街を襲いはじめます。
「子供(モンスター)が、父親を襲う」描写が、二度繰り返されます。
「ベオウルフ」の物語の骨子です。「ベオウルフ」は「モンスターと化した子供が父親を襲う話」と要約してもいいでしょう。
若い頃犯した過ちのツケを、年老いてから支払わされる。
そんな教訓を抽出することも可能ですが、精神科医である私は、
「子供が父親を襲いに来る話」の心理学的な意味に興味がいきます。
「子供が父親を襲いに来る話」。
言いかえると、「子供が父親を殺しに来る話」です。
そう、「父親殺し」といえば、多くの神話のモチーフとなり、さらに最近の映画のモチーフにもなっています。
「エディプス・コンプレックス」です。
「エディプス・コンプレックス」とは、母親を確保しようと強い感情を抱き、父親に対して強い対抗心を抱く心理状態のことです。子供が母親を奪うために、父親と格闘する心理です。
ギリシア悲劇の一つ『オイディプス(エディプス)』(父王を殺し自分の母親と結婚したという物語)になぞらえ、エディプス・コンプレックスと呼ばれます。
思春期の男子は、親の言うことに何かと反抗します。特に、父親の言うことには、何でも反対してしまいます。このように、父親と葛藤し、対決し、父親を乗り越えていくことが、「成長」の過程では不可欠となります。
「父親を殺す」というのは、あくまでも「象徴」的な意味ですが、神話や古典の中では、実際に剣を交えて戦い、時として殺してしまうこともあります。
一番分かりやすい例は、やはり「スター・ウォーズ」でしょう。悪の権化と思われたダース・ヴェイダーは、実はルーク・スカイウォーカーの父親でした。そして、ルークは父親と決着をつけるために、ライトセイバーで一戦を交えます。直接手をかけたわけではありませんが、ダース・ヴェイダー(父アナキン・スカイウォーカー)は死に、一連の出来事を通じて、ルークは大人へと成長していきます。
最近の例でいえば、「ゲド戦記」もそうです。
冒頭でいきなりアレンが父親の国王を殺します。
私は、映画の物語上の「父親殺し」に象徴される、宮崎吾朗監督の「父宮崎駿殺し」を、興味深く見てしまいます。
いつまでも、父親の言うがままになっていては、成長などはありえない。
父親を殺し、その呪縛から解き放たれることが成長です。
その意味で、父宮崎駿の助けを全く借りず、父親を心理的な意味で殺し、「ゲド戦記」を完成させた宮崎吾朗監督は、「一人前の映画監督」として独り立ちしたといっていいでしょう。
子供というのは、「父親殺し」を経て、大人へと成長するのです。
そのためには、親への「反抗」というものは、不可欠です。
このエディプス・コンプレックスと「父親殺し」について知っていれば、「ベオウルフ」は俄然おもしろくなってきます。
子供が父親を殺しに行く。これは、子供の成長のためには、「必然」の行為なのです。つまり、グレンデルがフロースガ―ル王を襲い、ドラゴンがベオウルフ王を襲う。まさに、心理学的な必然です。
■ 母の視点から見た「ベオウルフ」
「ベオウルフ」のラスト。子供を失ったアンジー・モンスターは、今度は、ベオウルフの側近だったウィグラーフを誘惑するところで映画は終わります。
おそらく、ウィグラーフも誘惑に負けてアンジー・モンスターと関係を持ち、何十年か先に、その子供のモンスターが襲撃してくるという無限連鎖を暗示しています。
これこそが、人間の生きる世界の象徴です。
子供は成長し、父親に戦いを挑む。
この繰り返しなのです。
「ベオウルフ」の恐ろしいところは、この女性の「執念」でしょうか。
母親であるアンジー・モンスターは決してあきらめません。
子供を父親に、何度もけしかけるのです。
ここに隠された心理学的意味も、またビミョーで興味深いものがあります。
例えば、仕事が忙しくあまり構ってくれない夫。そんな夫を持つ女性(母)が、子供の「お受験」に熱中します。自分にとっての関心は、「夫」の昇進、「夫」の将来ではなく、自分の子供の進学、就職であり、その「将来」なのです。
「お受験」のために、塾や家庭教師に何十万円も費やします。
家計は火の車で、夫は残業を余儀なくされ、憔悴していきます。
妻は、自分のことを構わなくなった夫の愛情を代償するかのように、さらに子供の「お受験」に入れ上げていく・・・という。
これぞ、現代版ベオウルフ。
映画「ベオウルフ」のグレンデルが、マザコンぽいのが笑えます。
英国文学最古の英雄叙事詩「ベオウルウ」。
しかし人間は、何も成長することなく、同じ営みを繰り返しています。
夫に対する復讐の無限連鎖です(笑)。
交わる前は、すごいお色気で、ベオウルフを誘惑する。
しかし、二度目にベオウルフと対面したとのアンジー・モンスターの態度は、とても冷たいものです。ほとんど他人です。
本当は、身体を交えた「夫」なわけですから、もう少し優しく接してくれてもよさそうなものです。
完全に、「夫」よりも「子供」命になっています。
これは、結婚する前は、とても優しくお色気攻勢を仕掛けるが、結婚して子供ができた途端に、別人のように態度を変えて、冷たくなる世の中の「奥様」たちを象徴しているようで、とても怖いですね・・・。
ちなみに、うちの家内は違いますので、念のため(爆)。
■ 聖杯の意味 〜男性の象徴「角」
「ベオウルフ」には、心理学的に象徴的な意味が隠され、現代に通じる教訓が秘められています。人間の本性。基本的な行動原理のようなものが、しっかりと描かれていることは、理解できたでしょう。
残された謎は、「聖杯」の謎です。
続きを読みたい方は、コチラ・・・・・
トラックバックURL
トラックバック一覧
1. 映画レビュー「ベオウルフ/呪われし勇者」 [ 映画通信シネマッシモ☆プロの映画ライターが贈る映画評 ] 2007年12月03日 00:40
2. ベオウルフ 呪われし勇者 [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ] 2007年12月03日 21:05
『この誘惑が、世界をもてあそぶ。』
コチラの「ベオウルフ 呪われし勇者」は、英国文学最古の英雄叙事詩「ベオウルフ」をロバート・ゼメキス監督が、パフォーマンス・キャプチャーによって映画化した12/1公開のアドベンチャー・ファンタジーなのですが、早速観て来ち...
3. 映画・ハ行 ベオウルフ/呪われし勇者 [ 公開映画情報 ] 2007年12月03日 21:57
映画・ハ行 ベオウルフ/呪われし勇者 (2007)今回の映画は、「ベオウルフ/呪われし勇者」です。本作「ベオウルフ/呪われし勇者」は、伝説的な英雄たちの時代を舞台に、最高の戦士ベオウルフの壮絶な戦いを展開するアクション・ファンタジーです。監督は、「フォレス...
4. 一日の始まり [ 精神障害者と家族 ] 2007年12月06日 06:09
07/12/06 今朝は4時半近くに目が覚め、いつものようにエアコンと反射式のストーブをつけ起き、いつものようにコーヒーいれ飲む。
窓の外を、カーテン越しに覗くと、高速道路を照らす明かりと、一台だけ走る車のライトが見える。
空には、今朝は星が見える。
もう...
5. ベオウルフ 呪われし勇者 [ アートの片隅で ] 2007年12月06日 13:42
「ベオウルフ 呪われし勇者」の試写会に行って来ました。
なんと試写会は、この日だけだったようです。
全編CGとの事、、、、ホントCGってなんでも出来ちゃうのねw( ̄▽ ̄;)w
6. ベオウルフ [ Akira's VOICE ] 2007年12月06日 17:02
安っぽいドラマに不満を覚えるも,
ドラゴンとのバトルは一見の価値有り。
7. 「ベオウルフ 呪われし勇者」 3D効果? [ 映画コンサルタント日記 ] 2007年12月08日 01:25
上映スクリーン数: 270オープニング土日興収: 2億円昨年の正月作品「エラゴン
コメント一覧
1. Posted by
日本インターネット映画大賞
2007年12月22日 21:08
突然で申しわけありません。現在2007年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票にご参加いただくようよろしくお願いいたします。なお、日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。














